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あるところに少年が二人。
貴族生まれの片方は、いつだって何だって手に入れられた。
三時のお八つには、大きなケーキを独り占め。
下町生まれの片方は、生きるためにいつだって必死。
これまでの短い人生の間に、大概のことはやってきた。
そんな二人が出会ったんだ。
「ねぇ、何で君はここに来たの?」
裕福な少年は、ベッドの上に座ってその薄汚い少年を眺めていた。
「ご飯を、いただこうと思ってね。」
壁を這い登って入ってきたばかりの少年は、作り笑いを浮かべながら、部屋の作りをチェックする。
間違ったらしい。ここは台所ではないな。
「……ご飯?」
「そう、ご飯。どこにあるか知らないか?」
「あー…もうすぐ運ばれてくるよ。ちょっと待ってなよ。」
のんびりと貴族は答えるが、
下町の少年は、そう悠長なことは言ってられない。
「…そのご飯はどこからとってくるんだい?」
「とってこないよ。やってくるんだ。」
「……だから…!」
貧しい彼にとっては、食べ物とは手に入れるもので
裕福な彼にとっては、食べ物は与えられるものだった。
面食らう二人の少年は、互いの瞳をみつめあう。
そこに映るのは自分。紛れもなく自分自身。
ぼろぼろの布きれを纏った針金のような少年と、
宝石のついた衣装に包まれた大柄の少年だ。
こんこん
不意に叩かれたドアの音に、
貧しい少年はベッドの下へと潜り込む。
裕福な少年は何食わぬ顔で食事を受け取る。
「ごゆっくりお召し上がりください。」
「わかったよ。」
給仕の者が出て行ったところで、裕福な少年は、大丈夫と呟いた。
それを合図に、貧しい少年が顔を出す。
「ありがとう。」
「まだ君は何もしていないからね。」
「侵入したぜ。」
「そうかもね。」
そう言って、二人は静かに笑った。
少年同士の秘密だった。
「じゃぁ、これを半分ずつ食べようか。」
「いいのか?」
「良いんだよ。どうせ、いつも食べている。」
あまり良いご時世とは言えない時代にも拘わらず
肉も、スープも、サラダもあった。
貧しい少年は喜んでそれを口にし、
裕福な少年は当たり前のように、食事を摂った。
そして、少し、日にちが流れる。
いつの世にもある悲惨な出来事で、
裕福な少年は、家を失くした。
いつの世にもある労働力の需要で、
貧しい少年は、職を手にした。
そんな二人が出会ったんだ。
あの日よりも、偶然に。
あの頃よりも、必然に。
「なぁ、君に尋ねたいんだ。」
裕福だった少年は、今はぼろきれを纏い、手足は痩せ細っていた。
「どうやったら、食事を手に入れられるかい?」
「食事は買ってくるものだよ。」
貧しかった少年は、彼にミルクを差し出しながら言った。
「働いたら、手に入れられる。」
あの頃の君は?
働いてなんかいなかったさ。
でも努力はしていた
そうかもな
あの頃の君は?
食事は与えられていた
今の君は?
努力はしているつもりだよ
二人はそんな風に言い合って
そして あの時みたいににっこりと笑った。
「自分で手に入れるよ。」
裕福だった少年は、ゆっくりと立ち上がりながら、宣言した。
「大切なことだな。食事は、与えられるものなんかじゃない。」
「少し量が減った時、文句を言えば済むものでもない。」
「いつだって」
「どこだって」
『自分で掴みにいくもの』
二人は笑う。
楽しげに。この世界に愁いなんてないかのように。
「さぁ、お暇させてもらうかな。」
「またいつか。」
「そうだね。またいつか。」
嘗て世を席巻した貴族の位を失った少年は、新興財閥として社会に君臨した
嘗て下町で生きるために悪さを働いていた少年は、工業の面で社会を助けた
…かどうかは 別のお話。